デザイン思考〈第2回〉「顧客理解をしよう!デザイン思考①」
公開日:2020年8月31日

デザイン思考〈第2回〉「顧客理解をしよう!デザイン思考①」

5つのポイント
  1. 顧客は自分のニーズがわからない
  2. 「今まで知らなかったこと」を発見することがデザイン思考の顧客理解
  3. 「観察」「インタビュー」「体験」により顧客を理解する
  4. 顧客の「想い」や「考え」を探索する
  5. 顧客に共感することが顧客理解のゴール
はじめに

顧客がほしがるものは「全くあたらしいもの」ではなく「今あるものをよりよくしたもの」。そのため顧客アンケートをしても、あたらしいヒット商品やサービスのヒントは得られません。
「前例のない仕事のためのレシピ」であるデザイン思考では、最初のステップとして「1人の顧客」に向き合い「観察」や「インタビュー」を通じて、もしくは顧客の立場になって自分たちで「体験」することで、アンケートでは得られない「今まで知らなかったこと」を探します。
例えば「インタビュー」を行う際、「このような◯◯はどうですか?」といった自分たちの仮説を検証するような聞き方はしません。「今まで一番うれしかった◯◯はなんですか?」など、相手の考えや想いを探るような質問をします。これにより、自分たちの思考の枠組みを超える「知らなかったこと」に気づくことができ、結果として顧客があまり意識していないような願望や困りごとの発見につながるのです。
つまり顧客の感情や価値観を探り、顧客に「共感」することで、今まで見落としていたようなニーズや「あたらしい気づき」(インサイトと呼ばれます)を発見することが、デザイン思考の「顧客理解」となるのです。

1. 顧客は自分のニーズがわからない

前回のデザイン思考は「前例のない仕事のためのレシピ」であるとお伝えしました。「前例のない仕事」を始めるにあたり、デザイン思考ではまず「顧客の理解」を実践します。

「前例のない仕事」ですので正解はありません。しかし最も確実なのは「その仕事で喜ばせたい人」、つまり「顧客」(=お金を払う人)や「ユーザー」(=利用する人)を理解することです。顧客やユーザーが喜んでいただければ、その仕事が成功する可能性は高まります。

では顧客やユーザー(以下「顧客」とします)をどのように理解すればいいのでしょうか?

「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬がほしい』と答えていただろう。」

これはヘンリー・フォードの有名な言葉です。顧客がほしがるものは「全くあたらしいもの」ではなく「今あるものをよりよくしたもの」である、と言えます。つまり顧客にただほしいものを聞くだけでは、今あるものの改善点しか把握できないということです。

さらに「前例のない仕事」では「今あるもの」がないため、例えば顧客アンケートなどを行うにしても、そもそも何を聞いていいかもわからず先に進めなくなってしまいます。また「今あるもの」があったとしても、改善すべき点は把握できますが、全くあたらしい商品やサービスのヒントを得られる可能性は低いです。なぜなら彼らは「今あるものをよりよくしたもの」がほしいだけだからです。

そのためデザイン思考では顧客に意見を聞く際、アンケートではなく「1人の人間」に焦点をあて、その人を「観察」「インタビュー」する、その人になりきって自分自身で「体験」することで、顧客がどのような考えや想いを抱いているのかを把握し、顧客を理解します。

2. 1人の顧客から「多くの人が喜ぶヒント」を探す

1人の顧客から「多くの人が喜ぶヒント」を探す

具体例を挙げましょう。

現在コロナ禍において、多くの飲食店は苦境に立たされています。この状況を打開するために「コロナ時代の飲食店のあり方」を模索されている関係者の方も多いと思います。まさに「前例のない仕事」です。

前回、デザイン思考は「お客さまやユーザーが抱える問題(=目的)が何かを模索しながら定義して、具体的な問題解決策を立案・設計する」方法と説明しました。つまり「コロナ時代の飲食店のあり方」というのは「コロナ時代におけるお客さまの『外食の問題』を定義して、解決策(となる飲食店のあり方)を立案・設計する」という考え方になります。

そのためまずは飲食をするお客さまの理解からスタートします。

例えば今でも来てくれる常連さんや、以前は毎日来てくれたけれど、今は一切外食しなくなった人など、こだわりを持った方を選ぶのがおすすめです。そのこだわりの中に、多くの人に通用するような、思わぬヒントがあることが多いからです。

具体的な方法は「観察」(お客さまの様子を観察する)、「インタビュー」(お客さまに聞く)、「体験」(自分自身が客になって外食を体験する)などがありますが、共通するのは「今まで知らなかったことを知ること」が目的という点です。

「すでに知っていること」については、過去に何かしら対策を打ち、もしくは実現できずに諦めたことが多いと思います。逆に「知らないこと」を発見できれば、全くあたらしい発想が生まれるヒントになります。

よくある顧客理解の方法として、自分たちが考えた「仮説の検証」があります。「このような◯◯を考えているがどう思うか?」といった聞き方です。決してダメだという訳ではありませんが「自分たちの仮説」では自分たちの発想の枠は超えられません。仮説に自信があるならばOKですが、発想の枠を超えたいのであれば、仮説は一旦忘れ、顧客理解を通じて「仮説を探す」意識で進めましょう。

仮説を探す

そのためにはお客さんに「共感」し、お客さんの「外食」についての「考え」や「想い」を徹底的に掘り下げることが重要です。それができると「今まで知らなかったこと」をいろいろ発見でき、発想の枠を超えた仮説が見つかります。

例えば常連のお客さんを観察し「意外な行動をしたとき」になぜそんな行動をしたのか、前後の流れを把握し、直接聞いてみます。またコロナで来なくなった常連さんに「お店で今まで一番楽しかったことは何か?その理由は?」とインタビューしてみる。このような外食に関する考えや想いがわかるような観察やインタビューを実践します。

そして今は来なくなってしまった常連さんから「一番楽しかったのはお店のあの雰囲気の中で、マスターが作るおつまみを食べること」という発言があったとします。この常連さんは「外食」について次のような考えや想いを抱いていると言えます。

  • お店の雰囲気が好き
  • マスターが作るおつまみは鉄板

さらに言えば

  • お店は単なる「食べる場所」ではない
  • 「美味しいもの」というよりは「マスターが作るもの」を食べたい

という考えや想いを抱いている可能性があります。人間の考えや想いを100%正確に把握できませんので、発言した事実に基づいてある程度推測しても構いません。「こういう考えや想いを抱いているかもね」と違和感なく言えるならOKです。ただし、あくまでも事実に基づくことが大事です。事実に基づかないと「妄想」になってしまいますので注意してください。

「推測が間違っていたらどうするの?」と指摘が入るかもしれませんが、「間違っていたらもう1回やり直せばいい」というのがデザイン思考です。「間違いをしないために10時間かけるなら、間違う可能性はあっても1時間で10回やる方がうまくいく可能性が高い。しかも10時間かけたって間違う時は間違うでしょう?」という考え方ですので、ぜひ覚えておいてください。ただし「妄想」には気をつけましょう。

本題に戻ります。私は飲食店関係者ではないので推測になってしまいますが、

  • お店は単なる「食べる場所」ではない
  • 「美味しいもの」というよりは「マスターが作るもの」を食べたい

という常連さんの考えや想いを知らなかった、もしくはあまり意識していない飲食店も多いのではないでしょうか?それだとすればひとまず成功です。「外食」についてのあたらしいヒントを手に入れた、ということになります。

このように飲食店関係者が知らなかった、見落としていた顧客の「考え」や「想い」を、1人の顧客に向き合いながらたくさん発見しましょう。そして「1人の顧客に向き合う」ことを「多く」の顧客に実践してください。正解はありませんが、最低でも10人、できれば20〜30人くらいの顧客に「1人ひとり」向き合えば、アンケートでは得られない「飲食店関係者が知らなかった多くの顧客が喜ぶヒント」を見つけられるはずです。

3. インタビューによる顧客理解のレシピ

これまでデザイン思考の「顧客理解」について紹介しました。前回、デザイン思考は「前例のない仕事のためのレシピ」とお伝えしています。ここではすぐに実践できる「インタビューによる顧客理解」の進め方を具体的に説明します。

1)デザインする「顧客の体験」を決める(デザインテーマ)

まずはデザインテーマを決定します。ポイントは「動詞」を意識することです。例えば「電話をデザインする」ではなく「電話する体験をデザインする」といったイメージです。モノではなく「顧客の体験」を意識することで、結果として革新的なモノやサービスの発想が生まれやすくなります。会社や職場、自分自身が顧客にどんな「体験」を提供しているのか、または提供したいのかを確認しテーマを設定しましょう。正解はありませんが、関わるメンバーが「最もチャレンジしたいテーマ」がおすすめです。

2)インタビュー相手を選ぶ

次に「誰にインタビューをするのか?」を決めます。デザインテーマに関して「こだわりを持っている人」かつ「実際にインタビューできそうな人」を選ぶことがポイントです。
例えば「外食体験」がテーマであれば「毎日3食すべて外食」している人や、逆に「1年で数回しか外食しない人」など、外食について極端な行動をしている人(=エクストリームユーザーと言います)がおすすめです。このような人たちはテーマに関する独自の工夫や行動をすでに実践しているため、多くの人が喜ぶようなヒントを教えてくれる可能性があります。一方で現実的にインタビューに協力してくれないと意味がありませんので「こだわり」と「インタビューのしやすさ」の両面でインタビュー相手を具体的に探しましょう。SNSなどで協力を呼びかける、街頭でインタビューする(意外に皆さん答えてくれます)などもおすすめです。

3)インタビューでの質問を考える

インタビューする際に聞く「質問」を事前に考えましょう。デザインテーマに関する「考え」や「想い」を聞き出せる質問にすることがポイントです。
「外食体験」がテーマであれば「最近外食したのはいつ?」「週に何回外食する?」といった基本的なことはもちろん、「一番思い出に残っている外食は?」「最悪だった外食は?」など相手の感情に関する質問をすると「考え」や「想い」を聞き出しやすくなります。大事なのは質問した後「なぜ?」を繰り返すことです。「なぜ一番思い出に残ったのか?」「なぜ最悪だったのか?」を深掘りすることで、その人の「考え」や「想い」を聞き出します。そのため事前に考えた質問をすべて聞く必要はありません。あくまでインタビューする際のきっかけづくりとして準備しておく、くらいの感覚の方がうまくいきます。

4)インタビューをする

インタビュー相手は必ず1人にしてください。複数の相手を同時にインタビューすると、深掘りができなくなります。できれば了承をとり、録音もしましょう。1人に対して最低でも30分インタビューするくらいの感覚で「なぜ?」を繰り返し、デザインテーマに関する相手の「考え」や「想い」を聞き出します。質問する中で「好き嫌い」に関する発言があればチャンスです。好き嫌いは相手の「考え」や「想い」がそのまま出ますので「なぜ好きなのか?」「いつから好きになったのか?」などを深掘りしましょう。
また皆さんが「意外だ」「面白い」と思った発言も深掘りしましょう。「意外だ」「面白い」ということは皆さんが「今まで知らなかったこと」が潜んでいる可能性が高いからです。

5)「共感マップ」にインタビュー内容をまとめる

インタビューの内容を「共感マップ」にまとめましょう。共感マップは「発言」「行動」「考え」「感情」からなるフォーマットです。インタビューで聞いた話はすべて「発言」ですが「週3回は外食する」という普段の行動に関するものは「行動」に入れます。このようにインタビューの内容を1センテンスごとに「発言」「行動」に記入していきます。
インタビュー内容をすべて「発言」「行動」に記入したら、次は「考え」「感情」を埋めましょう。「発言」の中で「考え」や「感情」に関するものをコピペします。さらに、インタビュー相手の人となりを思い出しながら、その人のテーマに関する「考え」や「想い」に「共感」し推測しましょう。例えば「お店の雰囲気が大好き」という発言があるならば「お店は食事だけでなく雰囲気を味わう場だ」と考えているかも知れません。もしくは「みんなで雰囲気を共有することが大好き」という感情を抱いている可能性もあります。ただしインタビュー相手が「バーや自宅でいつも1人飲みを楽しんでいる人」ならば、この推測は無理があり「妄想」のため却下です。

このように推測も交えながら相手に「共感」することで「今まで知らなかったこと」を数多く発見することがデザイン思考の「顧客理解」であり、前例のない仕事の第一歩です。

共感マップ

顧客理解

いかがでしたでしょうか?このようなデザイン思考の進め方自体も「前例のない仕事」だと思いますが「前例のない仕事」はまずはやってみて、失敗から学ぶことがうまくなる秘訣です。ぜひ身近な顧客やユーザーに、今までとはちょっと違った「考え」や「想い」に関する質問をしてみましょう。

次回は顧客理解で得た「今まで知らなかったこと」の中から「供給側の盲点」を見つけ、デザインテーマに関して「顧客がどんな問題を抱えているのか?」を定義する方法をお伝えします。

中澤雄一郎
中澤雄一郎

㈱Ringfish 代表取締役、新規事業コンサルタント、デザイン思考ファシリテーター
早稲田大学法学部卒。IMAGICAでの映像プロデューサー、ヤフーの事業統括責任者、損保ジャパンの新規事業開発リーダー、ベンチャー企業の最高経営責任者(CEO)を経て現職。既存業務と同じ感覚で新規事業に取組み、失敗する事例を数多く経験し、デザイン思考などイノベーション手法の普及をビジョンとする。
通算100件以上のプロジェクト、30件以上のサービス、3件の事業創出、500万人が利用するサービスの事業責任者を経験。企画・プロデュースした事業は日経優秀製品・サービス賞「最優秀賞」、日本サービス大賞「優秀賞」など複数受賞。

BPO Prácticaでは、お困りの問題を解決するBPOコンテンツを多数展開しております。

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