デザイン思考〈第3回〉「供給側の盲点をみつけよう!デザイン思考②」
公開日:2020年10月30日

デザイン思考〈第3回〉「供給側の盲点をみつけよう!デザイン思考②」

5つのポイント
  1. 供給側の盲点を発見することが、革新的な問題解決策を生む
  2. 実現できるか?ビジネスになるか?は後回しにする
  3. 「今まで知らなかったこと」の中から供給側の盲点を探す
  4. 解決すべき問題を定義することで、よいアイデアが生まれる
  5. 「問題定義文」を作成することが「問題定義」のゴール
はじめに

インタビューや観察を通じて「今まで知らなかったことを知る」のがデザイン思考の「顧客理解」です。その「知らなかったこと」の中から「供給側の盲点」、つまり商品やサービスの提供者や取引先などいわゆる業界関係者が見落としていたことを見つけ、解決すべき問題として定義します。それがデザイン思考の「問題定義」です。

供給側が抱く「顧客・ユーザー」像と、実際の「顧客・ユーザー」には必ずズレがあります。成熟した業界では従来の固定観念に縛られることも多く、顧客やユーザーの変化を見落とし、ズレに全く気づかないこともよくあります。そのズレを問題として捉えることができれば、今まで業界やライバル企業が見落としていたような、これまでにない問題解決策を生み出すことができます。

前例のない仕事に取り組む際、「いいアイデアを考えよう!」といきなり解決策から検討するケースも多いですが、デザイン思考では「そもそも問題は何なのか?」と探ることに大きなウェイトを割いています。この問題定義のプロセスを経ることで、個人のセンスやひらめきに依存せずに、業界が見落としていた顧客やユーザーの潜在ニーズに迫ることができるのです。

1. 供給側の盲点を発見する

デザイン思考は「前例のない仕事のためのレシピ」です。「前例のない仕事」を始めるにあたり、デザイン思考ではまず「顧客の理解」を実践し「今まで知らなかったことを知る」ことが重要と前回お伝えしました。インタビューや観察、自らの体験を踏まえ、多くの「今まで知らなかったこと」を知ることができたとしましょう。その「知らなかったこと」の中から、解決すべき問題は何か?ということを決める「問題定義」が次のステップとなります。

何が解決すべき問題なのか?こちらも正解はありません。デザイン思考では一般的に「インサイトを見つけよう」としています。この「インサイト」は「洞察」とか「驚くべき新たな気づき」のように説明されることが多いですが、定義は難しく、漠然としてよく分からないと感じる人も多いのではないでしょうか?そこで私はもっとシンプルに「供給側の盲点」とお伝えしています。つまり商品やサービスを供給する側の人たちが見落としていたり見過ごしていたりする「顧客理解で得られた気づき」を、解決すべき問題として捉える、というものです。

供給側の盲点を発見する

供給側の人たちが抱く顧客やユーザーのイメージと、実際の顧客やユーザーは100%の一致はしません。必ずズレ、つまり盲点が存在します。常に顧客やユーザーをリサーチしている、といった会社であっても、業界の固定観念が邪魔をしたり、また顧客やユーザーの迅速な変化に対応しきれなかったりするため、必ず盲点があるはずです。
特に昔からあるような成熟した業界では、これまでの「当たり前」が強固過ぎて、実際の施策が顧客やユーザーの感覚からズレていることも多々あります。例えば銀行窓口が午後3時で閉まってしまう、これは今の時代、顧客視点ではかなり非常識なことか思いますが、いまだにそのしくみは変わっていません。
こういった盲点を探し、その中から優先して解決すべき問題を特定すれば、今までライバル企業や業界が見落としていた革新的なアイデアが浮かぶ可能性が高まります。

2. 「実現できるか?」「ビジネスになるか?」は後回し

先ほどの銀行窓口のケースでは、おそらく銀行側にもさまざまな事情があるため、現状を変えられないのかと思います。ただしここに非常に重要なポイントがあります。そういった「実現できるかどうか?」や「ビジネスとして成立するか?」は一旦後回しにして、まずは「顧客やユーザーが喜ぶか?」だけに焦点を当ててみましょう。
デザイン思考のキーワードとして「人間中心」という言葉があります。今や多くの会社でこの「人間中心」や「顧客第一主義」といった言葉が経営理念に盛り込まれているかと思いますが、では「人間中心」とは具体的にどういうことをすればいいのでしょうか?

世の中の商品やサービス、さらには社内向けの施策であっても、それを成功させるためには次の3つの要素が必要です。

  1. 「役に立つこと」→顧客やユーザーを喜ばせることができる
  2. 「実現できること」→技術や経験、費用面などで実現することができる
  3. 「ビジネスになること」→収益を上げ続けることができる、(社内施策であれば)会社の業績に貢献できる
成功させるための3つの要素

「人間中心」とは具体的には上記の「実現できること」「ビジネスになること」を後回しにし、まずは「役に立つこと」を徹底的に考え、そして「役に立つこと」が見つかったら、それを「どう実現するか?」「どうビジネスになるのか?」について検討を始めるということです。
一見非常にシンプルですが、これを実践するのはなかなか難しいのが現実です。「この技術を使って何かできないか?」といった発想の会社も多いですし、実現できるかどうかも分からないことを検討していると、周囲から「あいつらは何をやっているのだ?」と突っ込まれてしまうのが一般的かもしれません。もしくは、まだ役に立つかどうかも分からない段階で「それは利益になるか?」という質問を本気でする経営者が多いのも事実です。

でも「役に立ち、実現でき、ビジネスになること」を同時進行で考えるのは至難の業です。そのようなスキルを持った人材はほとんどいない、と言っても過言ではないでしょう。ですからよほどの自信がない限り、まずは「役に立つこと」を徹底的に模索してください。「それって実現できるの?」「これって利益になるの?」といった疑問はしばらく封印しましょう。これはデザイン思考全般にかかわる考え方ですのでぜひとも押さえておいてください。

3. 「今まで知らなかったこと」の中から供給側の盲点を探す

具体例を挙げましょう。前回と同様「コロナ時代の飲食店のあり方」をデザインテーマに「問題定義」の方法について説明します。

常連さんなどへのインタビューを通じて事実や推測を交え、以下のように「今まで知らなかったこと」を知ることができます。

  • お店は単なる「食べる場所」ではない
  • 「美味しいもの」というよりは「マスターが作るもの」を食べたい
  • コロナで万が一のことがあると責任が取れないので顧客をお店で接待できない

この3つの顧客の想いや考えからでも「供給側の盲点」と言えることがあります。例えば

  • 大抵のお店は「飲食店」は「飲食する場所」という前提になっている
  • 顧客の中には「食べること」よりも「雰囲気を感じること」をお店に求めている人もいる
  • お店には「マスターが作るもの」をお店の中以外で食べられるしくみがない
  • 顧客の中には「マスターが作る」ことが、料理の美味しさの指標になっている人がいる
  • 顧客はお店やマスターとの「絆」にお金を払っている
  • コロナ時代でも安心して接待できるお店はまだ存在しない
  • 「コロナに感染しない」ことをウリにしたお店はない

といったことが挙げられます。私は飲食店関係者ではありませんので「そんなこと気づいているよ」というお店がすでにあるかもしれません。とはいえ供給側の盲点に本当になっているのか?を証明することは不可能に近いと思いますので、「これってライバルや業界の人たちは見過ごしているよね?」と思えるものであればOKです。違ったら戻って考え直せばいい、というのがデザイン思考の発想なので、かかわるメンバーが納得できれば、次のステップに進みましょう。

上記のように「供給側の盲点」の候補を複数見つけ、その中から「面白いアイデアがたくさん出そうなもの」「多くの人が共感してくれそうなもの」を選びましょう。

このようにデザイン思考では「顧客理解」「問題定義」を通じて「そもそも解決すべき問題は何なのか?」を探ることに大きなウェイトを割きます。どんなに素晴らしいアイデアが浮かんでも、誰の問題も解決できないものであれば意味をなさないからです。

「前例のない仕事」に取り組む際、いきなり「よいアイデアを考えよう!」と号令をかけるケースがありますが、解決すべき問題が曖昧なまま解決策を考えていることになります。天才肌やセンスのある人でない限り、それではなかなかよいアイデアは浮かびません。よいアイデアとは「よい問題」と「よい解決策」がセットになったもの、とも言えます。まずは顧客理解を通じて解決すべき問題をきちんと定義した後に、具体的なアイデアを考えましょう。そうすれば才能やセンスがなくても、誰でも「よいアイデア」を生み出せるようになります。

4. 問題定義のレシピ

「顧客理解」に基づいた「問題定義」の重要性について紹介しました。ここではすぐに実践できる「問題定義」の進め方を、前回の「インタビューによる顧客理解のレシピ」の続きとして具体的に説明します。

① インタビューした相手の中から特徴的な「ターゲットユーザー」を選ぶ
インタビューを複数の人に行っている場合、その中から特徴的な人を選んで、その人をイメージしながら問題定義を行います。複数の人の考えや想いを混ぜてしまうと、実在しない人のために問題定義をすることになってしまうため、必ず1人に特定しましょう。もちろん複数の人それぞれをイメージして、問題定義をそれぞれの人ごとに検討することもOKです。
「特徴的」というのは、今まで知らなかったような考えや想いを持っている、面白い行動をしているといったイメージですが、とにかく印象に残っている、といった理由でもOKです。その場合は印象に残った理由を考えてみましょう。

② 「ターゲットユーザー」の特徴や事実、ニーズを洗い出す
ターゲットユーザーの発言や行動、考えや想いをまとめた「共感マップ」前回(※第2回参照)を見ながら、その人のデザインテーマに関する「特徴」や「事実」、「ニーズ(願望や困っていること)」の候補をたくさん洗い出しましょう。特徴や事実はなるべく具体的に、ターゲットユーザーに会ったことがない人でもイメージが浮かぶようなエピソードや発言、行動などを選定してください。
ニーズは共感マップの考えや想いを参考にしながら、デザインテーマに関して本人が抱いている不満や困りごと、願望などを洗い出します。推測を交えてもOKですが、必ず事実(発言や行動)に基づいたものにしてください。

③ 特徴や事実、ニーズから「供給側の盲点」を探る
特徴や事実、ニーズを洗い出したら、今度はそれを踏まえた「供給側の盲点」の候補をたくさん洗い出しましょう。ターゲットユーザーの考えや想いをイメージしつつ、なぜそのユーザーが困っているのか?そのような願望を持っているのか?を掘り下げると「供給側の盲点」が浮かび上がってきます。いまの供給側に対して、ターゲットユーザーが何かしらの不満や願望があるということは、供給側がそれに対応しきれていないから、といえます。もちろん物理的に対応できないものも多いですが、「なぜ、このようなことに対応できていないのだろう?」と思えるような不満や願望であれば「供給側の盲点」かもしれません。「他の業界ではうまくいっているのに、この業界ではなぜそういうことが起こるのか?」といった疑問や「それってつまりは、供給側が◯◯を見落としているからでは?」という視点を持ちながら、供給側の盲点の候補をたくさん洗い出しましょう。

④有力な候補を組み合わせ「問題定義文」にまとめる
これまでに洗い出したターゲットユーザーの特徴や事実、ニーズ、供給側の盲点の中から、有力な組み合わせを選定し1つの「問題定義文」にまとめます。問題定義文は以下のようなフォーマットになっています。

問題定義文

どれが有力なのか?に正解はありませんが「面白いアイデアがたくさん出そう」「多くの人が共感してくれそう」といった評価軸で、直感に基づき投票で決めることをおすすめしています。逆に議論して決めることは避けた方がいいでしょう。なぜなら正解がないため、議論しても論理的な人の意見が通りやすくなるだけで「論理的には間違っていないけど、なんかつまらない」といったものが残ることがよくあるからです。また正解のない議論は膨大な時間を浪費しますので、投票で素早く決めて次のステップに進み、違えば戻ってやり直した方が時間はかからず、結果的に複数の案を試すことができます。

この問題定義のプロセスでは全く正解が分からず、また根拠も推測を交えた曖昧なもので、論理的な正しさもあまり意味をなしません。そのため非常にモヤモヤしますが、それは「普段とは違う脳の使い方をしている」証拠だと前向きに考えましょう。創造的な思考というのは根拠や論理的正しさから一歩離れた脳の使い方をします。それを実践しているからこそモヤモヤするのです。

次回はいよいよ、今回定義した問題の「解決策」を考えるステップとなります。問題を解決するためのアイデアを数多く創出するための具体的な方法をお伝えします。

中澤雄一郎
中澤雄一郎

㈱Ringfish 代表取締役、新規事業コンサルタント、デザイン思考ファシリテーター
早稲田大学法学部卒。IMAGICAでの映像プロデューサー、ヤフーの事業統括責任者、損保ジャパンの新規事業開発リーダー、ベンチャー企業の最高経営責任者(CEO)を経て現職。既存業務と同じ感覚で新規事業に取組み、失敗する事例を数多く経験し、デザイン思考などイノベーション手法の普及をビジョンとする。
通算100件以上のプロジェクト、30件以上のサービス、3件の事業創出、500万人が利用するサービスの事業責任者を経験。企画・プロデュースした事業は日経優秀製品・サービス賞「最優秀賞」、日本サービス大賞「優秀賞」など複数受賞。

BPO Prácticaでは、お困りの問題を解決するBPOコンテンツを多数展開しております。

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