デザイン思考〈第5回〉「プロトタイプをつくって早く検証しよう!デザイン思考④」
公開日:2021年2月25日

デザイン思考〈第5回〉「プロトタイプをつくって早く検証しよう!デザイン思考④」

5つのポイント
  1. よいアイデアができたらすぐにカタチにする
  2. 早く安くたくさん失敗する
  3. プロトタイプはあえて雑につくる
  4. ユーザーと一緒にアイデアを磨く
  5. プロトタイピングにはレシピがある
はじめに

第4回では、誰もがアイデアを生み出せる方法をお伝えしました。よいアイデアを手に入れたら、次は何をすればよいのでしょうか?

「いきなり事業計画をつくって社内稟議にかけ予算を取る」「ちょっとした予算と時間をかけてプロトタイプ(試作品)をつくる」といったケースもありますが、それではうまくいきません。なぜなら、それらは皆さんが机上で考えた生まれたてのアイデアであり、本当に役に立つかどうか分からないからです。

生まれたてのアイデアにお金や時間、労力をかけると「サンクコストの罠」(「今さらやめる訳にはいかない」と考えてしまうこと)に陥ってしまいます。

デザイン思考では、よいアイデアを手に入れたら圧倒的な早さと安さでプロトタイプをつくります。「プロトタイプをつくったらお金も時間もかかるのでは?」と思うかもしれませんが、費用は0〜3,000円、時間は10~20分程度です。プロトタイプに対する率直な意見をユーザーから聞き出し、どんどん改善していきます。今回はその具体的な方法や作法、注意事項について説明します。

1. 「生まれたてのアイデア」にお金や時間をかけてはいけない

デザイン思考は「前例のない仕事のためのレシピ」です。「前例のない仕事」を始めるにあたり、デザイン思考では「顧客の理解」「供給側の盲点の発見」を通じて「問題定義」を行います。

第4回では、その問題を解決するためのアイデアを「組み合わせ」によって生み出す方法をご紹介しました。組み合わせたアイデアの中から、誰かの役に立ちそうで実現できそうな「よいアイデア」を手に入れたとします。
この段階でよくあるのが、「こんなによいアイデアがあるのだから早く実現したい」という誘惑に駆られることです。アイデアに思い入れを持つことは否定しませんが、それによってアイデアにお金や時間、労力をかけてしまう恐れがあります。「サンクコストの罠」に陥ってしまうということです。

「サンクコストの罠」とは、お金や時間、労力をかけてしまうと、それ以上続けてもうまくいかないと分かっていてもやめられなくなる心理のこと。これは人類共通のもので、誰もが陥る罠です。アイデアにお金や時間、労力をかけてしまうと、それが役に立たないと分かってもアイデアを見直したり、別のアイデアに換えたりすることができません。

では、どうすればよいのでしょうか?
お金や時間、労力をかけずに、そのアイデアが役に立つかどうかを徹底的に検証すればよいのです。そうすればアイデアを何度も見直したり、別のアイデアを試したりできます。
それを実現するのが、デザイン思考の「プロトタイピング」です。具体的な方法を見てみましょう。

2. 早く安くたくさん失敗する

デザイン思考の「プロトタイピング」では、アイデアのプロトタイプ、つまり試作品を圧倒的なスピード感と低コストでつくります。かける時間は10~20分程度、費用の目安は0〜3,000円です。
そしてプロトタイプを速やかにターゲットとなる顧客に見せ、率直な感想や意見を聞き出します。その感想や意見をもとに、プロトタイプをお金や時間をかけずにどんどん改善するのです。
もし顧客にプロトタイプを否定されても、この程度の時間やお金であればサンクコストの罠に陥ることなくそのプロトタイプを捨て、抜本的に変更したり別のアイデアを試したりできます。

「前例のない仕事」には失敗がつきものなので、いかに失敗から学ぶかが重要です。学習を重ねることで、少しずつ成功に近づきます。プロトタイピングを活用すれば早く安く失敗できるので、多くを学べるはずです。同じ時間と予算で、10回失敗したチームと1回しか失敗していないチームのどちらが成功するでしょうか?答えは明らかです。

もちろん、単に「失敗すればよい」という訳ではありません。一歩進んだら振り返り、顧客の感想や意見に真摯に向き合う、あるいは別のアイデアを試して「学びのある失敗」をしましょう。

プロトタイプを作成

ユーザーの感想や意見を聞く

プロトタイプを改善する、または他のアイデアに変更する

これを繰り返すことでアイデアが磨かれ、顧客から「使ってみたい!」と言われる可能性が高まります。また「どうやって実現するのか?」「ビジネスになるのか?」といったことも問われるので、実現でき、利益を生みそうなアイデアへと軌道修正していきます。

アイデアを顧客と一緒に育てることで、製品・サービスに必要な3つの要素「役に立つこと」「実現できること」「ビジネスになること」をクリアできるものに成長します。ただし、本当に実現できてビジネスになるかどうかは分からないので、手応えを感じられたらOKです。
この段階になったら、ある程度お金や時間をかけて「本当に実現できてビジネスになるかどうか」を検証しましょう。ただし、常に「早く安くたくさん失敗する」ことを意識して進めてください。

3. プロトタイプの具体例

では、具体的にどのようなプロトタイプをつくればよいのでしょうか?

例えば、「100均図画工作」「寸劇」「チラシ」といった方法があります。これらの共通点は、「ユーザーにアイデアが伝わる」「お金も時間もかけない」ことです。どの方法でも作成時間は最大20分、費用も数千円程度に収めてください。
これは「お金も時間もかけなくてよい」という意味ではなく、「お金も時間もかけてはいけない」という意味です。なぜなら、お金や時間をかけた途端に「サンクコストの罠」に陥るからです。1時間も頑張ってしまうと愛着が湧いて、大きな修正をしづらくなるので十分注意してください。普段の仕事とは正反対かもしれませんが、「雑でテキトウ」の方がうまくいきます。
そのため、制作会社への外注などはNGです。「サンクコストの罠」にはまり、引き返せなくなります。自分たちで速やかに作成しましょう。

ここからは、プロトタイプをつくる具体的な方法をいくつかご紹介します。
自分のつくるサービスにあったプロトタイプ作成方法を選びましょう。

100均図画工作

100均図画工作

その名の通り、100円ショップの材料で図画工作によってプロトタイプをつくる方法です。
左の写真はスマホ画面のプロトタイプですが、画用紙を使って30秒ほどで作成したものです。こんなものでも何の画面なのか、十分伝わります。きれいにつくる必要は全くないので、手書きで雑につくりましょう。

右の例は、個室でくつろげる空間を表現しています。これでは伝わらない点もあると思いますが、どのようなアイデアなのかは理解してもらえるでしょう。伝わらない点をユーザーに教えてもらい、即座に改善すればよいのです。100均には紙コップやお皿、毛糸、紙粘土などさまざまな材料が揃っているので、それらをうまく使えば製品やサービス、空間のアイデアなども十分表現できます。

寸劇

寸劇は、飲食店などサービスのプロトタイプをつくるときに有効です。例えばお店のメニューなどは100均図画工作で作成し、店員のセリフやサービス内容は芝居で伝えるのもよいでしょう。
「芝居なんてできない」と思うかもしれませんが、下手でも伝わればよいのです。大切なのは演技力ではなく、そのアイデアが顧客にとって役に立つかどうか。どんなに演技が下手でも内容はユーザーに十分伝わるので、ぜひ挑戦してください。

チラシ(※イメージは下記参照)

A4用紙1〜2枚程度のチラシをワードなどで作成する方法です。プレスリリースでも構いません。Googleドキュメントなどオンライン上で共同編集できるツールを使えば、チームで集まらなくてもリモートで一緒に作成できるので、コロナ禍では特におすすめの方法です。またチームで共同してチラシをつくることで、アイデアに対するメンバー間の認識のギャップに気付き、それを埋めることができます。

アイデアの内容だけでなく、「誰のどんな課題を解決するものなのか?」「ユーザーにはどんなメリットがあるのか?」「なぜこのようなアイデアを企画したのか?」なども入れると、皆さんの思いが顧客に伝わりやすくなります。

4. プロトタイピングのレシピ

ここまで、デザイン思考における「プロトタイピング」の概要をご紹介しました。前述の通り、デザイン思考は「前例のない仕事のためのレシピ」です。ここからは前回の「アイデアのレシピ」の続きとして、すぐに実践できる「プロトタイピング」の進め方を具体的に説明します。

①アイデアのプロトタイプを即座につくる

「アイデア創出」で「役に立ち実現できそう」なアイデアが生まれたら、すぐにプロトタイプをつくりましょう。チームメンバーがアイデアのイメージを頭の中に描いている状態で作成します。熟考する必要はありません。

第4回でご紹介した「アイデア」の例

「アイデア」の例

(アイデア同士を組み合わせてあたらしいアイデアを創出する)

Googleドキュメントを活用した、チラシによるプロトタイプのつくり方をご紹介します。チラシの内容に正解はありませんが、以下のような構成が一般的です。

A. キャッチコピー&アイデア名

B. イメージ写真

C. 問題提起(第3回で定義した問題定義文がベース)

D. アイデアの内容(概要や具体的な特徴、機能)

E. ユーザーメリット(顧客やユーザーにどんなよいことがあるのか?)

F. 企画した理由(スタッフはなぜ、どんな想いでこのアイデアを考えたのか?)

チームメンバーで分担し、上記の項目をすり合わせることなく書いてみましょう。時間は、10分もあれば十分です。ある程度書いたら全体を俯瞰し、メンバー間の認識のずれを確認して修正します。ここまでを20分程度で済ませてください。完成度は20%でOKです。日本語が多少おかしくても、伝われば大丈夫。ここで頑張ってはいけません。「サンクコストの罠」に陥らないように、愛着を持たず雑に進めましょう。

以下のような内容であれば、15分以内に作成できます。

チラシによるプロトタイプの例

チラシによるプロトタイプの例

②ユーザーテストで「率直な意見」を聞く

プロトタイプができたら、速やかにユーザーの意見を聞きます。ユーザーは、第3回で定義した「問題定義文」のユーザーに近い人です。このケースなら、「行きつけのお店がある」「マスターのことが大好き」「コロナでお店に行けない」といった人に意見を聞きましょう。SNSなどで友人・知人に聞いてみると、意外と簡単に見つかります。

ユーザーが見つかったら、感想や意見を聞きます。ポイントは「率直な意見」を聞くことです。相手を説得したり共感させたりするのではなく「ダメなものはダメ」と言ってもらい、アイデアを改善するためのヒントをもらうのが目的です。極力アイデアの説明はせずにチラシを読んでもらい、率直な意見をもらいましょう。

意見を聞くときは、「フィードバックマップ」という便利なフレームワークを使いましょう。これは「よい点」「改善点」「疑問点」「アイデア」をユーザーから聞き出し、メモするためのものです。「改善点」「疑問点」などに目が行きがちですが、「よい点」や「アイデア(よりよくするためのヒント)」も聞き出し、フィードバックマップにメモしましょう。

フィードバックマップ

フィードバックマップ

③ユーザー5人に3回意見を聞く

5人以上のユーザーに意見を聞いてください。「5人に聞けば80%以上の問題を発見できる」と言われているからです。
5人の意見を聞いたら「複数の人が指摘したもの」「問題定義文の悩みを抱えるユーザーにとって重要なもの」を改善します。そのとき、「よい点」を潰さないように注意してください。

例えば先ほどのチラシだと、「私は野菜を育てていない」と言われる可能性もあります。その場合は「持ち込み可」に変更する、あるいは「マスターと一緒にスーパーに行く」といったアイデアをユーザーが教えてくれる場合もあります。チラシであれば、すぐに修正できます。修正したチラシを同じ5人に見せて、再度意見をもらいましょう。

これを3回繰り返します。うまくいけば、誰かが「ぜひ使いたい」と言ってくれます。そうなれば、プロトタイピングとしては成功です。

この時点で、そのアイデアは誰かの役に立つ可能性が極めて高くなっているはずです。次は、お金と時間をかけて「実現できるか?」「ビジネスになるか?」を検証しましょう。ここからは開発フェーズに入るため、デザイン思考の出番は終了です。自分たちに合う開発手法やマーケティング手法を駆使しながらアイデアを具現化し、ビジネスにつなげてください。

デザイン思考における「プロトタイピング」は、生まれたてのアイデアをユーザーと一緒に育てていくプロセスです。「サンクコストの罠」に気をつけながら早く安く失敗を重ね、多くを学び、生まれたてのアイデアを「誰かの役に立つアイデア」に育てましょう。

これまで5回にわたって、「前例のない仕事」においてデザイン思考を活用し、取り組むべきアイデアを生み出すレシピをお伝えしました。
次回は、実務においてデザイン思考を活用するための具体的な方法をご紹介します。

中澤雄一郎
中澤雄一郎

㈱Ringfish 代表取締役、新規事業コンサルタント、デザイン思考ファシリテーター
早稲田大学法学部卒。IMAGICAでの映像プロデューサー、ヤフーの事業統括責任者、損保ジャパンの新規事業開発リーダー、ベンチャー企業の最高経営責任者(CEO)を経て現職。既存業務と同じ感覚で新規事業に取り組み、失敗する事例を数多く経験し、デザイン思考などイノベーション手法の普及をビジョンとする。
通算100件以上のプロジェクト、30件以上のサービス、3件の事業創出、500万人が利用するサービスの事業責任者を経験。企画・プロデュースした事業は日経優秀製品・サービス賞「最優秀賞」、日本サービス大賞「優秀賞」など複数受賞。

BPO Prácticaでは、お困りの問題を解決するBPOコンテンツを多数展開しております。

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