デザイン思考〈第1回〉「現代になぜデザイン思考が必要なのか?」
公開日:2020年6月30日

デザイン思考〈第1回〉「現代になぜデザイン思考が必要なのか?」

5つのポイント
  1. 現代はかつてない「予測のできない時代」
  2. 生き残るためには「何か新しいこと」が必須
  3. 「何か新しいこと」が「普段の仕事の進め方」ではうまくいかない理由
  4. デザイン思考は「前例のない仕事」に最適な手法
  5. デザイン思考は「誰もが再現できるレシピ」
はじめに

今ありとあらゆる職場で「今までのやり方だけでない、何か新しいこと」が求められています。なぜなら今は過去の経験則が通じない、予測ができない時代(VUCAの時代)だからです。
では「何か新しいこと」をやるために、一体どうすればいいのでしょうか?「普段の仕事のやり方」で進めると、まず失敗します。なぜなら「普段の仕事」と「何か新しいこと」つまり「前例がない仕事」は根本的に異なるものだからです。
「普段の仕事」は成功して当たり前です。決められた計画やマニュアルを守り、より効率的に行うことが求められます。一方で「前例のない仕事」は失敗が大半です。計画通りにはまずならないので、失敗から多くを学び軌道修正することが重要です。
そこで、チームで力をあわせ、レシピ通りに進めることで「前例のない仕事」でも斬新なアイデアを次々と生み出せる手法として、注目されているのが「デザイン思考」です。新規事業や商品開発だけでなく、あらゆる職場で「前例のない仕事」が必要になった時代においては「デザイン思考」はビジネスパーソンの必須スキルといっても過言ではありません。これから6回にわたり「デザイン思考」の具体的な内容をお伝えします。

「何か新しいこと」をやらないと生き残れない時代

「うちの会社も今まで通りではダメだ、何か新しいことをやろう!」
こんなことを言われた経験はありませんか?今、経営者やマネージャー職で「何か新しいことをしないとまずいことになる」という危機感を持っている人が増えています。いったい彼らはなぜ、そのような危機感を抱いているのでしょうか?

日本の場合、最もシンプルな理由は「少子高齢化による人口の減少」です。人口が減れば当然お客さまの数も減りますので、今まで通りの仕事をしていたら売上は間違いなく減少していきます。でもそれだけが理由ではありません。なぜなら日本以外の国でも同様の危機感を持つ人が増えてきているからです。

今の世の中を指し示す言葉として「VUCAの時代」というものがあります。Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の頭文字をつなぎ合わせたもの、つまり今は「変化が激しく、不確実、複雑で曖昧な世の中」であるということです。「予測が困難で、従来のやり方が通用せず、正解がわからない時代」とも言えます。このような時代認識は世界中に広まっており、例えば中国でも変化が当たり前の世の中として「新常態(ニューノーマル)」という言葉が盛んに使われるようになっております。

「何か新しいこと」をやらないと生き残れない時代

このような時代背景から、日本だけでなく世界中で「何か新しいことをやらないと生き残れない」と考える人が増えているのです。特に日本は人口減少や新興国の台頭により、他の国よりも影響は大きいとされています。

では本当に予測が困難な時代になっているのか、過去を振り返ってみましょう。
例えば5年で何が起きたでしょうか?アメリカではまさかのトランプ大統領が誕生し、イギリスはEU(欧州連合)をまさかの離脱。日本では毎年のようにまさかの異常気象や台風の被害が相次いでいます。会社では従来なら考えられなかった副業やテレワークがまさかのように当たり前になりつつあり、そして今、コロナウィルスが世界的に大流行しています。想像もできないような「まさかの」ことが次々と起きているこのような世界を、誰が予想できたでしょうか?

なぜ予測がますます困難になってきたのでしょうか?相次ぐ異常気象や災害は地球温暖化の影響が大きいですが、経済・社会面ではグローバル化でどの国も世界の影響をダイレクトに受けるようになり、そしてIT技術の進化、特にGAFAに代表される新興企業の台頭でイノベーションが次々に生まれているから、だと言われています。

このような時代だからこそ、従来のやり方だけではなく、「何か新しいこと」をやらないと生き残れないと多くの人が危機感を抱いているのです。

「何か新しいこと」を「普段のやり方」でやると失敗する

では「何か新しいこと」、つまり「今までやったことがない、前例がない仕事」を行うにあたり、みなさんはどのような方法で進めますか?「普段の仕事と同じやり方で進める」というのであれば「まずうまくいかないですよ」とあえてお伝えしておきます。
「そんなことを言われても」と感じる人も多いと思いますが、理由を説明します。
一言でいえば「普段の仕事と前例がない仕事」は、スポーツでいうなら「野球とサッカー」くらい根本的に異なるものだからです。

「何か新しいこと」を「普段のやり方」でやると失敗する

こちらの表は「普段の仕事」と「前例のない仕事」を比較したものです。
「普段の仕事」は成功が当たり前ですよね?ハンバーガーショップでハンバーガーをうまく作れなかったら、お店はつぶれてしまいます。一方で「前例のない仕事」は初めてのことばかりです。世の中にまだハンバーガーショップがない時代、初めて挑戦したお店は失敗の連続だったはずです。失敗が当たり前ですし、成功する方が珍しいと言っても過言ではありません。このように成功の確率がまったく異なるため、仕事の進め方も根本的に異なってきます。

「普段の仕事」では計画やマニュアルをきちんと作り、それを守ることが重要です。ミスをしないことが価値であり、いかに速く正確に、より効率的に仕事を進めるか?ということが常に求められています。そのために決められ通りにきちんと仕事をこなし、曖昧なものを極力なくすことが必要です。それによって品質の高い商品やサービスを提供できるようになります。普段みなさんはこのような仕事をされているケースが多いと思います。

一方で「前例のない仕事」は失敗が当たり前です。前例がないのでミスを連発します。そのためいくら計画やマニュアルを作っても想定外のことばかりで、その通りにうまく行きません。となると、失敗からいかに多くを学び、どう次に生かすか?という姿勢が重要になります。ですので、小さく失敗し多くを学んだり、まずはやってみてダメなら戻ったり、いろいろな物の見方を尊重し、試してみることで、少しずつ成功に近づくことができます。常に曖昧なものだらけですが、それを楽しむくらいのスタンスの方がうまくいきます。

このように「普段の仕事」と「前例のない仕事」は野球とサッカーの違いくらい、進め方や発想が根本的に異なります。これを理解しないまま、サッカーをやろうとする人にバットのすぶりをさせるといったことが実際に現場で起きています。まずはこの根本的な違いを理解することが「前例のない仕事」を進める上での重要な第一歩です、ぜひ覚えておいてください。

「デザイン思考」は「前例のない仕事」をするために最適な手法

では「前例のない仕事」はどうやって進めればいいのでしょうか?いろいろな手法がある中で、近年特に注目されているのが「デザイン思考」です。
デザイン思考は前例のない仕事を行う際に、その仕事が対象とするお客さまやユーザーがどんな問題を抱えていて、その問題を解決するためにはどんなアイデアが役に立ちそうか?を検討するための手法です。つまり「前例のない仕事で一体何をするのか?」という疑問に対して「こんなことやあんなことはどうだろう?」という具体的なアイデアを生みだすことができるようになります。

「デザイン」というネーミングのせいで、自分には関係がないのでは?と感じる人もいるかもしれません。どうしても服やポスター、パッケージのような「目に見えるもの」をより良くするといったイメージが浮かぶからだと思います。でも本来「デザイン」には「目的をもって具体的に立案・設計すること」(引用:デジタル大辞泉)という意味があります。つまりデザイン思考は「お客さまやユーザーが抱える問題(=目的)が何かを模索しながら定義して、具体的な問題解決策を立案・設計する」方法だと言えます。

いわゆるデザイナーの人たちは、例えばポスターを作る際、発注元であるクライアントの目的を達成するために、ポスターのデザイン(ここでは目に見えるものをより良くする意味)を行います。ポスターのデザインをどのようなものにするのか?という問題に正解は一切ありません。そもそも問題自体も非常に抽象的ですよね?そしてデザインのパターンは無限に存在すると思います。それでも優秀なデザイナーはクライアントが喜ぶデザインを見事に作り上げます。

このような正解がない問題で、かつ問題すら曖昧な状況でも成果を出す優秀なデザイナーの進め方やマインドセットを「前例のない仕事」で応用できるようにした、それがデザイン思考です。「思考」という言葉が誤解を招くと思いますが、思考法だけではなく、進め方やツール、マインドセットなどを誰もが再現できるようにパッケージ化をした、いわば「前例のない仕事のためのレシピ」だと思ってください。

こういった「前例のない仕事」を進めるための手法やツールは他にもありますが、デザイン思考が優れているのは「誰もが再現できるレシピ」が整備されている点にあります。ただし条件があります。デザイン思考は1人で行うのではなく、複数の人が集まったチームで行う前提となっております。アイデアマンや企画センスのある人が職場にいなくても、チームの力で斬新で役に立つアイデアを次々と生み出せるようになる、それがデザイン思考の特長であり「前例のない仕事」に適していると言われている理由です。

ではなぜデザイン思考はそのようなことを実現できるのでしょうか?デザイン思考の主要なプロセスに沿って、その理由をお伝えします。

1.お客さまやユーザーを徹底的に理解する(共感)

デザイン思考ではまず初めにお客さまやユーザーにインタビューする、ひたすら観察を続けるといったことをします。目的は「チームがそれまで知らなかった、お客さまやユーザーが抱える問題のヒント」を見つけることです。チームのメンバーが抱いている仮説を検証するのではなく、チームが想定していなかった新しい情報を得ることで、従来の発想の枠を破るような視点を手に入れることができます。

2.ライバル会社や業界が気づいていない盲点を発見する(問題定義)

お客さまやユーザーを徹底的に理解することで、いろいろなヒントを得ることができます。デザイン思考ではそのヒントの中から、ライバル会社やその業界全体が気づいていないような盲点を見つけ、問題として定義します。ライバル会社や業界が気づいているようなことを問題として定義してしまうと、ありきたりなアイデアしか出てこなかったりこない、すでにライバルがやっている可能性もあります。ここであえて「盲点」を意識することで、これまでなかったような斬新なアイデアが生まれやすくなります。

3.実現性や事業性は後回しにして、お客さまやユーザーが喜ぶアイデアを考える(アイデア創出)

ライバル会社や業界の盲点となる問題を定義した後、デザイン思考ではその問題を解決するためのアイデアを「とにかく大量」に生み出します。そしてその中から、お客さまやユーザーが喜びそうなアイデアを選択し絞り込んでいきます。ここでのポイントは、そのアイデアが「本当に実現できるのか?」「ビジネスとして儲かるのか?」という点はすべて後回しにすることです。実現できるかもわからないし、そもそもビジネスとして成立するかもよくわからないけど、でもお客さまやユーザーが泣いて喜ぶようなアイデアを選びます。

4.アイデアを速やかにカタチにして、お客さまやユーザーの反応から改善する(プロトタイピング)

そしてそのアイデアをお金も時間もかけずにすぐにカタチにし、お客さまやユーザーの意見をもらうことで改善しながら、実現できかつ儲かりそうなアイデアに発展させていきます。どのくらいお金も時間もかけないか?というと、初期段階ではお金はほぼゼロから数千円、時間は10〜20分程度という従来の常識ではありえないくらいのレベル感であることがデザイン思考のやり方です。

「デザイン思考」は「前例のない仕事」をするために最適な手法

上記のような進め方を高速で行ったり来たりすることで、デザイン思考は「前例のない仕事」で取組むべきアイデアを大量に生み出し、多くの小さな失敗を積み重ねることで成功確率を高めてくれるのです。普段の仕事とはかなり異なる進め方であることが、なんとなくお分かりいただけたでしょうか?

次回からはデザイン思考のより具体的な内容についてお伝えします。

中澤雄一郎
中澤雄一郎

㈱Ringfish 代表取締役、新規事業コンサルタント、デザイン思考ファシリテーター
早稲田大学法学部卒。IMAGICAでの映像プロデューサー、ヤフーの事業統括責任者、損保ジャパンの新規事業開発リーダー、ベンチャー企業の最高経営責任者(CEO)を経て現職。既存業務と同じ感覚で新規事業に取組み、失敗する事例を数多く経験し、デザイン思考などイノベーション手法の普及をビジョンとする。
通算100件以上のプロジェクト、30件以上のサービス、3件の事業創出、500万人が利用するサービスの事業責任者を経験。企画・プロデュースした事業は日経優秀製品・サービス賞「最優秀賞」、日本サービス大賞「優秀賞」など複数受賞。

BPO Prácticaでは、お困りの問題を解決するBPOコンテンツを多数展開しております。

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